【映画批評】『落下の解剖学』2023年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作の本作はミステリーなのか?

評価:☆☆☆☆

 この間、『ある閉ざされた雪の山荘で』を観たばかりだが、また、雪山の山荘の殺人事件(?)が起きてしまったようだ。2作連続で雪山の山荘を舞台にした映画を映画館で観ることになってしまいました。何かの前兆であったら、良いことの前兆であると良いのですが。普通、雪山の山荘を舞台とした殺人事件というと、スキー客などが不測の大雪で山荘に閉じ込められて、密室殺人が起こるイメージだが、『ある閉ざされた雪の山荘で』は雪の山荘と想定された密室ではあったが、本作は主人公一家の住宅なのだ。舞台はフランスなのですが、ずいぶん山の上に住んでいる一家なのだ。それも、山の上に一軒だけぽつんとある家なのだ。

 フランス映画の独特な癖と言うか、フランスの文化なのかもしれないですが、無政府的と言うのか、型が無いと言うべきか、とにかく自由なのだ。どちらかとういうと愛着を持っているんですが、なぜ一家が市街地から遠く離れた山奥の雪深い山荘に生活をしているのか、はっきりとは分かりません。別に、山奥に住んでいても、構わないのですが、こういうちょっとした疑問というか違和感が多いんですね。ジーパン姿の男が登場して、やけに突っ込んだ話を訊いてくるのですが、話内容から弁護士と気づきました。最初、主人公のお兄さんかと思いました。

 それ以外にも、この愛すべきフランス映画の独特な癖はこの映画の舞台の一つである法廷でも炸裂します。フランスの法廷がどんなものか知らないのですが、半分赤色のサンタクロースみたいな服を着たスポーツ刈りの米軍の兄ちゃん風情が検事でした。この検事が見かけによらず、やり手なのだ。しかも、フランスの法廷はなかなかユーモアがあるようで、証人が「それはあり得ない想定だから、これから私は大統領になったと想定して話してもいいか?」と言うと、検事が「その想定はしなくていい」と言って、傍聴人からどっと笑いが起きたり、裁判長が「今日は金曜日だから、皆さん、良い週末を」と閉廷したりするのだ。日本の法廷では、少し考えづらいんじゃないかと思います。

 この映画を一言で言いますと、法定バトル映画だと言えると思います。ゲームの逆転裁判みたいなんですね。ただし、雪山の山荘での探偵パート、法定パートを繰り返していきますが、話が進めば進むほど、真相があやふやになっていきます。ストーリーとしては、山奥の山荘に住んでる一家の父親が2階から転落して、死亡します。犬の散歩から帰ってきた息子が発見するんですが、奥さんが疑われて訴えられます。

 旦那の死に方が不自然で事故なのか他殺なのか、分かりません。警察や検事は主人公の奥さんを犯行と断定して、捜査を進めます。弁護士は、夫の自殺の線で主人公を弁護します。主人公は夫は事故だと主張しますが、弁護士に説得されて、法廷では自殺の線で証言をします。

 この殺人、事故、自殺が説得力を持って法廷で証言されるのですが、どれも決め手に欠けてどこにも着地ができないんですね。この辺がミステリーと違うところで、この映画のスケールの大きさを感じさせます。ただ、旦那と子供の演出が少し雑で、役がちょっと弱かったと思います。子供がいない方がよかったんじゃないかと思ったほどです。

 23年のカンヌ映画祭では、『怪物』が最優秀脚本賞、役所広司が『PERFECT DAYS』で最優秀男優賞で、本作品がパルムドールでした。個人的には、『怪物』の方が良かったですが、これはこれで自由を感じられて面白かったです。

 

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この記事を書いた人

【ブログは週末更新、水曜日不定期更新を予定しています。】都心の1Kの賃貸マンションに一人暮らしの会社員の40代男性。仕事の傍らに、都会のコンパクトな生活空間を最大限に活用する方法を日々模索中。ガジェットや家電、スマホから生活のちょっとした工夫や趣味の映画鑑賞と読書について発信しています。

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