【映画批評】『52ヘルツのクジラたち』は現在社会の問題のてんこ盛りだが、加害者である虐待をする母親や金持ちのバカ息子もクジラなんだろう。

評価:☆☆

 本屋大賞を受賞しているので、期待していたのですが、介護、児童虐待からLGBTなど、現在の問題をてんこ盛りで、出てこないモノを探す方が難しいかもしれません。いくらなんでも、盛り込みすぎじゃないかと思いました。それから、金持ち=悪、マイノリティー=善といった紋切り型に終始しており、ストーリーは主人公に多くの不幸がのしかかっていくのですが、破滅することはなく、ドロドロとした昼ドラを見せられているようでした。

 それも違和感が無ければ良いんですが、違和感が多くて、観ていて困ります。一例を挙げると、望まないで生まれてきた子供に虫の名前をつけて、主人公に押しつけて、その果てには蒸発するというトンデモ女がいるのですが、人間もここまで酷すぎると、さすがに違和感があります。虐待までは理解できるのですが、子供を手放すというのはなかなかいないと思います。本能的なものだと思うのですが、虐待する親は子供に固執するものです。児童虐待の生の現実に触れてはいないので、詳しくは分かりませんが、虐待されている子供を親から引き離すが難しいところに、児童虐待の問題の課題があるのではないでしょうか。 

 ところが、この映画に出てくる虐待母親はあっさりと子供を手放します。さらに、子供を押しつける赤の他人の主人公に敵愾心を示します。子供を手放すのも、主人公に敵愾心をもつのも違和感を感じます。こういう違和感が非常に多いです。どちらかというと、僕はこの子供に虫の名前をつけて、手放す母親に興味をもったので、この母親を主人公にした映画や小説が読んでみたいと思いました。ただ、この映画の物語の貧弱さからして、母親がその懺悔か言い訳をする物語しか出てこなさそうです。

 通常、クジラは20ヘルツくらいの周波数で鳴くようですが、52ヘルツというかなり高い周波数で鳴くクジラの個体がいるようで、世界で唯一の個体がゆえに、「世界でもっとも孤独なクジラ」と呼ばれているそうです。52ヘルツで鳴くクジラと主人公たちのそれぞれの孤独な境遇と重なって、タイトルは良いのですが、先ほどの母親や金持ちの嫌な奴も52ヘルツで鳴くクジラだったんじゃないかと思ってしまいました。個人的はどうしても、虐待母親のインパクトが強すぎました。

 ↓音が出ます。52ヘルツのクジラの鳴き声。

 「ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典」より

 主演の杉咲花ですが、昨年は映画で良く見かけて、今年の日本アカデミー賞を優秀主演賞にノミネートされていましたが、受賞は安藤サクラだったかと記憶しております。僕としては、杉咲花の活躍は素晴らしかったと思います。今が旬の俳優なんでしょうが、少しハードな演技が多い印象です。『市子』は難病の妹の介護と尊厳死が一つのテーマでした。それが彼女の持ち味なのか分からないですが、もう少し上品な役を演じる彼女を見てみたいと思います。

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この記事を書いた人

【ブログは週末更新、水曜日不定期更新を予定しています。】都心の1Kの賃貸マンションに一人暮らしの会社員の40代男性。仕事の傍らに、都会のコンパクトな生活空間を最大限に活用する方法を日々模索中。ガジェットや家電、スマホから生活のちょっとした工夫や趣味の映画鑑賞と読書について発信しています。

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