【映画批評】『湖の女たち』旧満州ではなく、介護士=S、刑事=Mの攻守逆転の変態プレイくらいの展開があっても良かったかもしれない。

評価:☆☆

 本作は原作が今や大御所の吉田修一さんで、個人的に「湖」という舞台設定が好きなので、期待して観に行ったのですが、だいぶ期待外れでした。この映画は舞台が西湖という架空の湖のほとりに建つ介護施設が舞台で、100歳の老人の人工呼吸器が止まり死亡する事件から始まります。最寄りの西湖署の若手刑事の濱中(福士蒼汰)とベテラン刑事の伊佐美(浅野忠信)が捜査をすることになります。

 この人工呼吸器は、構造上、故障で止まることはなく(動力が複数あって、全部故障しないと止まらない、止まっても大きなブザー音がなる等)、人の操作でしか止めることが出来ない構造になっているようです。警察は殺人の線で捜査を行うのですが、捜査をして証拠を集めて立件していくというよりは、警察署内で消去法的に当日宿直だった介護士の松本(財前直見)を犯人と決めつけて、執拗に尋問を繰り返し供述を誘導するという手法で捜査をします。

 この100歳の老人の不審死を軸に、ストーリーが進んでいくかと思われたのですが、ここから色々な要素が絡んできてごちゃごちゃになってきます。西湖署は過去に50人が死亡する薬害事件で政治の圧力があり、未解決という苦い過去があるのですが、今回の100歳の老人の不審死に何の関わり合いがあるのかが分からない。まだ、過去の薬害事件は、登場人物のキャラを造形を深めるのでまだ良いのです(かつて正義感を抱いていた刑事が挫折して、弱い介護士に冤罪を強いるといった堕落ぶりは印象深い)。若手刑事の濱中が捜査で知り合った介護士の豊田佳代(松本まりか)に対して歪んだ支配欲を抱くようになり、豊田佳代も支配されたいという倒錯的な愛欲に溺れていくのですが、こちらの方が本編のメインとなるので、ストーリーがよく分からなくなります。介護士は看護師と比較して、重労働で社会的な地位が低く、給料も安い=Mとするこの映画の理屈には違和感を覚えました。このSMプレイ自体はなかなかの迫力があるのですが、「?」と首をかしげてしまうのは、根底にこの介護士に対する決めつけがあるのかもしれないです。

 さらに、映画の後半では、週刊雑誌の記者(福地桃子)が取材を進めて、なんと、この事件の被害者の100歳の老人が旧満州の軍人で、今回の不審死と西湖署管内の薬害事件がオーバーラップします。結局のところ、おそらくですが、かつて旧満州で起こった人間の業が、現在日本の介護施設の周辺でも起こった、ということなのだと思われます。しかしながら、登場人物がエキセントリックでやり過ぎ感や唐突感がが否めなく、旧満州の軍人関係も陰謀論でよく聞く話で胡散臭くなってきます。僕には真犯人がよく分からなかったのです。個人的は、旧満州も刑事と捜査関係者の倒錯的な愛欲も冤罪事件も別々に描いた方が良かったのだろうと思います。それでも、長めの140分の鑑賞が苦痛にならずに、飽きずに観られました。俳優の演技力や監督の演出の力によるものだろうと思います。

 この映画の舞台が西湖なのですが、どう考えても関西の架空の湖です。西湖というと、富士五湖の西湖を思い描いてしまうので、常に違和感がつきまといます。西湖は魚くんのヒメマス発見で有名ですが、個人的には、よくサイクリングやジョギング、ウォーキングをした馴染みのある湖です。湖の周囲が10kmでちょうど良いのです。おそらく、この映画が2003年の冤罪事件の湖東記念病院事件をモチーフにしているので西湖としたのでしょうけど、大阪に多摩川があるような違和感です。

 西湖は細かいところなので良いとしても、タイトルの「湖の女たち」は舞台の介護施設が偶々、湖畔だったというだけで、何のことかさっぱり分からずじまいでした。

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この記事を書いた人

【ブログは週末更新、水曜日不定期更新を予定しています。】都心の1Kの賃貸マンションに一人暮らしの会社員の40代男性。仕事の傍らに、都会のコンパクトな生活空間を最大限に活用する方法を日々模索中。ガジェットや家電、スマホから生活のちょっとした工夫や趣味の映画鑑賞と読書について発信しています。

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